クリエイターの真価は作品ではない。作曲家・こおろぎさん高知わんく講演

クリエイターの真価は作品ではない。作曲家・こおろぎさん高知わんく講演

会いたい人がいるとき、あなたはどうやって会いますか?

 

2018年3月10日、「フリー作曲家・こおろぎさんの営業ナシでクリエイティブな仕事でメシを食う講演会 in高知」が、私の住むシェアハウスわんくで実現しました。

 

始まりは、私が年明けに、こおろぎさん(@Kohrogi34)に送った一本の講演依頼メール。

いきなり送ってしまって大丈夫かなあ、と1ヶ月くらい悩んでからえいやでメールを送ったのですが、なんと一瞬で快諾していただきました。

 

関連記事:【予告】作曲家・こおろぎさんがわんくに!

(講演依頼を決意した理由は、上のエントリをご覧ください)

 

実は、わんくに入居する前から応募書類に「イベントを開催したい」と書いていた私。

 

こおろぎさんに会いたいという夢と、わんくでイベントをしたいという夢。それらがこんな形で一度に叶うとは、予想もしていませんでした。

前座では、元スタジオミュージシャンのヒロキさん(@moztu9)とともに「わんくのテーマ」など私のオリジナル曲を3曲歌わせていただきました(嶺北での初ライブ!)。

 

会場が少し温まったかな、というところで、いよいよ本編スタートです。

講演タイトルは「営業ナシでクリエイティブな仕事でごはんを食べる方法」。

講演はすごい情報量だったので、特に私が勉強になったところを抜粋してお送りいたします。

 

ほとんどの仕事は自宅、昔ながらの営業はしない

 

こおろぎさんはたまにスタジオや打ち合わせに出かける以外は、ほとんどのお仕事を自宅でされているそうです。また、お仕事を取るために電話をかけたり、誰かに会いにいくといった、いわゆる昔ながらの営業は一切されずに、作編曲家として生計を立てていらっしゃいます。2014年から約4年間、音楽と文章で食べていらっしゃるとのことでした。

 

これは驚異的なことです。なぜなら、私自身フリーランスの作曲家として走り始めたところなので分かるのですが、まず「作曲家です」と名乗って色々曲を出してみても、お仕事に繋がる機会はそう多くありません。

 

また、会社に雇われて作曲家をしたり、売れっ子で、テレビや映画などに曲を提供しまくって太いロイヤルティ契約を持っていたりするならまだしも、「知る人ぞ知る」タイプのフリーランスの作曲家というのは、先の見通しが不透明になりがちです。音楽で継続的に食べていけている人がほんの一握りしかいないというのは、それだけ収入的に不安定な世界ということなのです。

 

そこを解決していくためにこおろぎさんがやったことは、大きく分けて

・「仕組み」をうまく利用する

・ストック型コンテンツの量産

・音楽業界の外を意識した発信

の3つでした。

 

仕組みをうまく利用する

 

「インターネットは僕の世界」

 

こおろぎさんがiPhoneを手に入れ、ツイッターとブログを始めたのは、今から約8年前の2010年。この3つを手に入れたことで「人生変わるな」という確信があったそうです。

 

対面の営業が苦手という点をカバーできると同時に、インバウンドやコンテンツマーケティングなどの新しい考え方を教えてくれたインターネット。音楽のコンテンツとしての扱い方に、新しい視座を与えてくれたのもインターネットでした。

さらにイケダハヤトさんなど、当時どんどん出てきていたブロガーにも影響を受け、ブログ「こおろぎさんち」を開設。

 

「ネットっていうのは僕の世界なんじゃないかな、と思って」。そう話したこおろぎさんは、とても嬉しそうに見えました。

 

ルールを探す、持ちこむ、利用する

こおろぎさんがプロになるためにやろうとしてきたのは、 大きな流れと違うルールや、違う道を通ること。従来の音楽業界に存在する「売れ方」の王道に乗っかるのではなく、フリーランスの利点を生かして小回りを効かせ、スキマを突いていくやり方をとったそうです。

 

例えば、使い勝手の良いBGMをたくさん作ってネット上に置いておくこと。

ニコニ・コモンズやAudioStock(日本最大の投稿型フリーBGM・効果音プラットフォーム)といった場所に、それぞれ200曲を超えるBGMを投稿されています。

 

ここから、「このイメージで曲を作ってほしい」とか、「楽曲を編集してほしい」などの依頼に繋がり、そこから長い付き合いになっていくお客さんも多いのだとか。

 

こおろぎさん「今でも、コンテンツで引っ張ってくるっていうやり方をしている人は実はあんまりいなくて。ブログとかのデザインのフォーマットは似たものを作っていたりするんですけど、インバウンドとかの概念を理解している人は少ないんじゃないのかなと思ってます」

 

現在、ネット上にあるこおろぎさんのコンテンツは、音楽が無料・有料合わせて350〜400曲、ブログのエントリは700記事近くあるのだとか。

 

こおろぎさんは過去にテレビドラマの音楽のお仕事をされており、JASRACからの印税収入もあるとのことです。そうした既存のシステムからの恩恵も受けながら、それに依存せず、淡々と新しい場所を切り開き、コンテンツを量産し続けていらっしゃるのです。

 

気遣いが勝負

 

こおろぎさんによれば、請負仕事をする作曲家にとって大切な能力は「相手の言葉の意図をうまく音楽に置き換えられるか、どうか」なのだそうです。

 

こおろぎさん「人によって言葉の意味が全然違ってて、例えば、もっとキラキラさせてくださいって言われたら、それは鉄琴かなんかでカンカンやったキラキラなのか、テンポを速くするとキラキラになるかもしれないとか、もっと音を軽くした方がキラキラになるのかなとか、あとはメロディが細かく動いた方がキラキラになるんじゃないかみたいな。一言で色々な解釈ができる。

 

それを何の意味で言ったのかを、意地悪クイズみたいなのを紐解く力が必要になるんですよね。

 

音楽の良し悪しっていうのはもちろんあるんですけど、必要最低限あれば、あとは気遣いとか人のことを理解する能力になってきます。」

 

これは作曲家に限らず、一人で仕事をしているクリエイター全員に言えることだと思いました。例えばライターさんなら、インタビューして記事を書く時に、相手が言ったことをそのまま書いているだけでは、仕事をしているとは言えないのかもしれません。

 

相手はどんな意図があって、その発言をしたのか?

 

の部分をを考えながら話を聞くことで初めて、より深みのある、良質な記事を書くことができるのではないでしょうか。

 

ブログは音楽業界の外側と内側に同時に発信

「こおろぎさんち」スクリーンショット(2018年4月2日撮影)

 

こおろぎさんといえばブログ「こおろぎさんち」。「クリエイターをお手伝いしたい個人メディア」というキャッチフレーズがついていますが、「音楽でメシ」以外にも、色々なカテゴリで記事を書いています。

 

こおろぎさん「記事ごとに、これはこういった人向けだな、みたいに対象を変えていて。基本は音楽のブログだけどそれ以外のこともどんどん書く。」

 

運営するメディアは、お仕事先の方、音楽家の方など、どのような方が読んでもどこかで琴線に触れるように作るということ。そのために、音楽以外の内容も充実させているのですね。

 

曲自体は差別化するポイントではない

 

 

今回お話されていたことで、一番目からウロコだったのは、「作曲家にとって、作る曲のクオリティやメロディ自体は価値が出せるポイントではない」ということでした。

 

それは「曲の質をあげるにはどうしたらいいんだろう?」という方向に一生懸命考えていた私にとってはびっくりするような言葉でした。

 

こおろぎさんは今のお仕事を、作曲というより、デザイナー演出家的なものであると捉えているそうです。

ゆえに、純粋に良い曲、良いメロディを作るというよりも、依頼の意図を汲み取って音楽に置き換える力であったり、

人工知能が生成した選択肢の中から選んでいく力

音楽で何かに注目させたり、場面を演出していく力が重要になっていく、とのことでした。

 

その信念にしたがって、今後、作曲はAIの自動作曲ソフトを買って積極的に使っていくということだったり、深夜の雑談の際にミックス(楽器ごとの音量バランスや、周波数帯域等を調整し、曲を聴きやすく仕上げる作業)も人工知能を使っているということもおっしゃっていて、驚きの連続でした。

 

とにかく好きなこと、やりたいこと、重要なことにフォーカスするという姿勢が、とても魅力的に感じました。

 

音楽は空気

 

質疑応答タイムで印象的だったのは、「音楽をやっていくことの決め手になった出来事はありますか?」という質問に対し、

 

こおろぎさん「決め手は特にない気がしてて…一日中やっても飽きないのが音楽なので…空気のような感じ。他にそんな好きなものもないし…」

 

と、柔らかく答えていたこと。

 

「仮説を持って、色々な方向にタネをまく」ことの大切さを講演でお話されていたのですが、この、良い意味での軽さが行動力の秘密なのかなと思いました。

 

好きなことをとことんやる

 

こおろぎさんは興味のないこと、好きじゃないことがはっきりしていて、今回のお話の中だけでも、

・人との交流

・外に出ること

・自然(ものすごい田舎で育ったため、自然を見てもなんとも思わないとのこと)

・お仕事をリピートしてもらうためのステップメール、年賀状などのケア(SNSで繋がると普段から見てもらえるようになるため、声がかかりやすくなるので必要ない)

・休みと仕事のバランスを考えて休日を決めること(休みたいときに休む)

これらのことはやってないか、ほとんどやらないという風におっしゃっていました。

 

一方で、

・どれだけ質の高い曲を早くたくさん作るか

・自分の作風と違う曲作りに挑戦すること

・音楽でゲームや演劇の空間の「演出」をすること

・どれだけ色々な方向に種まきをするか

といったことに関して話される時の表情は本当に生き生きとしていました。

 

VRゲームバーチャルYouTuberに関しては、お仕事でも関わられている上に日常でもめちゃくちゃ遊ばれていて、本当に楽しいんだろうなあというのが普段の発信を拝見していても伝わってきます。

 

polcaをご支援いただいた方にお渡しした動画より

こおろぎさん「何にハマっても、自分の好きだとか感動したりって言うことを上手く言語化して、周りに伝えることができれば、今すぐ価値にできるとは思います。ハマっていることがすぐ価値にできる。っていうのはいい時代ですよね。」

 

柔らかな空気とクレバーな視線

ふんわりした雰囲気が素敵なこおろぎさんでしたが、お話された内容はとてもクールでした。

 

現状どんなシステムで世の中が回っているのか、作曲という仕事の本質は何で、今後どうなっていくのか、そのために何をすべきなのかといったことを冷静に分析されていて、非常に勉強になりました。

 

 

おまけ:講演終了後(ここからは日記です)

明るい時間から、あかうしで素敵なパーティー

https://twitter.com/adan_coko/status/972394872689672192

アフターパーティーは17時ごろから開始し、黄昏の中、お酒と音楽、嶺北産の食材を交えながら、そこにいた全員でポップな時間を共有しました。

 

「こおろぎさんをあかうしでもてなしたい」polcaの支援金であかうしを購入し、焼肉とすき焼きにして参加者全員で食べたのですが、柔らかくて本当においしかったです。

(polcaを支援してくださったみなさん、本当にありがとうございました!)

 

https://twitter.com/adan_coko/status/972394642799931393

肉をそのまま焼いたものとすき焼きにしたものをお出ししました。こおろぎさんにも気に入っていただけたようで、何よりでした。

 

夜もお話

こおろぎさんと話したいことが多すぎて、夜になり会が終わった後も、宿泊場所のONEれいほく拠点・ハヤシはうすで私が寝落ちするまで(失礼)ひたすらお話をさせていただきました。

 

少しだけ(30分くらい)配信が残ってます↓

こおろぎさんオススメのシンガー・アリーヤさんのお話やリバーブ処理のお話とかしてます。

 

時計が止まっていたので正確には分からないのですが、途中お風呂に入ったりしながら、結局4〜5時間くらいお話ししていたような…?

https://twitter.com/adan_coko/status/972503843916333056

 

翌日は高知観光

翌日も起きた瞬間から「こおろぎさんと話したい」と思っていて、お送りに同乗させていただきました。早めに市内についたので高知駅前の銅像を撮ったり、ONEれいほく事務局長のハヤシさんと3人でひろめ市場をのぞいたり、日曜市を散策してシシ汁をいただいたりしました(野尻さんという、ハヤシさんの大学の先輩で猟師をされている方のお店「野じ庵」です)。ここの時間も1秒1秒楽しすぎてやばかったです。

日曜市のシシ汁

 

最後に空港まで行く道中、ハヤシさんが運転、こおろぎさんが助手席、私が後部座席というフォーメーションだったのですが、あまりにも名残惜しくて、「こおろぎさん、肩こってないですか?」と後ろから勝手にこおろぎさんの肩を揉むという奇行に出てしまいました…。

 

でもこおろぎさんが優しくて「ああ、そうなんですよ〜」と言いながら受け止めてくれたので、本当に救われました…!(ちなみに本当に尋常じゃなくこってました。)(なんだろうこのまとめ方。)

 

おわりに

 

わんくでの住人主催の初めてのイベントとなった今回、至らぬ点も多々ありましたが、それ以上に、ここに関わった全員が幸せを感じてくれた会になったように感じています。

 

わんくは固くなりすぎず学べる場所としてとても優秀なので、今後も楽しくて学びがあって文化的なイベントを企画できたらなあと思っています。

 

最後になりますが、ゲスト第1号になってくださったこおろぎさん、お手伝いしてくださったみなさん、polcaの支援をしてくださったみなさん、講演に来てくださったみなさんに、この場を借りてお礼を申し上げます。本当にありがとうございました!

https://twitter.com/adan_coko/status/972751349254299649

https://twitter.com/adan_coko/status/972751920979877888

高知空港でお帰りの直前に撮影

写真:むさし(@Mu_sanchi)、COKO(@adan_coko)

 

☆こおろぎさんがご自身で、講演の文字起こしほぼそのままのnoteを公開されています。時系列になっていますし、具体的な売上の比率などのデータを出しながら説明されているので、こちらを参照していただけると、よりわかりやすいですよ。

 

☆こおろぎさんsideのまとめ記事はこちら(ブログ「こおろぎさんち」に飛びます)

作曲家、ラッパー(MC COKO STYLO)。あ段records代表。24才金髪女性。東京のIT企業を新卒4ヶ月で辞め、高知の超田舎で作曲中。得意ジャンルはオーケストラからTrapまで。DJ練習楽しい。あなたの「似顔曲」作ります。

%d人のブロガーが「いいね」をつけました。